一般社団法人ソーシャル・イノベーション・パートナーズ
(左から)奈良 拓磨 投資・支援担当、福島 沙世子 事務局長
PROFILE
(奈良)東京大学理学部数学科卒。大学在学中は貧困世帯の子どもの学習支援を行うNPO活動に参画。大学卒業後、独立系戦略コンサルティング会社に入社し、新規事業立ち上げの戦略策定と実行のコンサルティングや、PEファンドや事業会社のビジネスデューデリジェンス等に従事。2020年7月SIPに参画。
(福島)サセックス大学院開発学研究所(IDS)卒。スイス銀行(現UBS)グループ、メリルリンチ(現バンク・オブ・アメリカ)グループにてグローバル・マーケット部門のバック、ミドル、フロント部署において実務経験を積んだ後、大学院進学を経て野村證券に入社。同社のトレーディングリスクを英国から日本法人に移管するグローバルプロジェクトにミドルオフィス部門として参画した他、クレジットトレーディング部門のサポート部署にてマネジメントに携わる。2019年4月よりSIPに参画。
アウトプット、アウトカム、インパクトの3指標を連動させて考える
奈良さんの典型的なウィークデーの過ごし方を教えてください。
奈良
私の場合は、協働先との打ち合わせが平均4件くらい入ります。それと並行して次の協働先候補のデューデリジェンスも行っているので、団体代表との討議もあります。それらの合間に、内部審議用の資料作成などを行って、なるべく残業はせずに18時くらいには終業する、というのが1日のおおまかな流れです。
SIPではひとつの団体に対して3年間支援を行い、当初の計画が達成できたところで卒業になるのですが、その期間中でも関わり方の濃度は変わってきます。支援の1年目はしっかりハンズオンで支援して事業成長の種まきをしていき、2年目3年目はオペレーションを回して成果を出していくというパターンが多くなります。ですので、どの段階にいる団体を支援しているかというタイミングによって忙しさは変わってきますし、中には計画通りの財務状況にならず新たな対応が必要になる団体もありますから、その場合はケースバイケースで対応することになります。
前職の戦略コンサルタントとの仕事との共通点、相違点についてはいかがでしょうか。
奈良
ロジカルに物事を考えて、いま何が重要なのかを導くという部分はコンサルタントと変わりません。ただ、コンサルタントの仕事は基本的に第三者としての提案となるのに対し、SIPでは実際に協働先の社会的インパクトを拡大させることが目標になります。限られた資源の中でどの施策がインパクトに直結するのかを見極め、社会にとって意義があるのかという視点でそぎ落としていくという作業は、営利企業向けのコンサル時代にはあまりなかったことだと思います。私自身、ロジックを固めたくなる衝動にかられるのですが、きれいな資料100枚を作るよりも、やるべきことだけ1枚にまとめてそれを実行する、そうした時間と頭の使い方の変化には当初は戸惑いもありました。
福島
どの団体も基本的には社会的意義のある、素晴らしい事業を展開されています。ただ、これまで創設者の強いパッションで走ってきて財務については規模的にも重要視せずに済んできた、といったケースもあったりするので、そのパッションには共感しつつ、冷静に事業として分析し、最大効率でインパクトを出せる方法を考えること、それを一緒にできる団体を選定することが必要になります。そのために、どうしたらDDの精度を上げられるかといった学びをフロントメンバー同士で横断的に共有する機会も設けています。
インパクト拡大がゴールというのはイメージを持ちづらい部分もあるのですが、例えばサービスの利用者数が増える、というようなことがポイントになるのでしょうか。
奈良
そうですね、指標は必ず設定しますが、社会の変化に向けての指標にも3階層あります。例に挙げていただいた利用者数というのは、我々の言葉では「アウトプット」と呼ばれている指標です。団体の活動が直接計測できる指標で、例えば今月何人利用したか、何時間利用したかというものです。ただし、この指標自体は活動から直接出てきた数字であり、どれだけ社会に意義があるかは明確ではありません。次に「アウトカム」という考え方があって、これは当事者や取り巻く社会がどう変わったかを可視化するものです。サービスを利用した人がどういう満足を得たか、どういう人生の変化が起こったかということを示しています。アウトプットより難しい点として、起こった変化が本当にその団体の活動に起因するのか、あるいはもっと広い社会全体の変容などが影響しているのかを考慮する必要があります。ですのでアウトカムはそれらを合算した、社会的意義においては中間的な指標と考えています。それらの先に「インパクト」があり、これは理想とする社会をどう設定するかというものです。例えば、「いじめによる自殺者をゼロにする」ということをインパクトとして設定してそれに向けて活動をしていく、というようなことになります。アウトプット、アウトカム、インパクトの順で変化が起こる時間軸が長くなります。実際の日々の活動はアウトプットの指標に表れてくるので、より長期的に生み出されるインパクトに近づいているのか考えることがとても重要になります。アウトプットの指標を上げるのが最終目標ではなく、いかにインパクトを創出させる事業とするための意思決定に生かしていくか、日々試行錯誤しています。