IFRS(国際財務報告基準)の基礎知識とキャリアへの影響
IFRS(International Financial Reporting Standards)とは、国際会計基準審議会(IASB)が策定する国際会計基準および国際財務報告基準です。これまで会計基準は国ごとに異なるルールが設けられていました。しかし今日のように企業活動がグローバル化し、多くの国々に拠点を持つグローバル企業や他国の証券市場に上場する企業などが増えてくると、国ごとに異なる会計基準ではさまざまな不具合が生じるようになりました。そこで世界共通の会計基準が求められるようになってきたのです。
IFRSは2005年にEU域内の共通会計基準として採用され、その後、世界中で徐々に普及が進み、日本でも導入に向けてのコンバージェンス(歩み寄り)作業が進められています。会計・経理部門などで働く人にとって、IFRSの台頭は今後業務にどのような影響をもたらすのでしょうか。またIFRSに関するスキルを身につけることによって、転職市場で有利になる点とはどのようなものでしょうか。
IFRSとは何か
IFRSの歴史は意外に古く、1973年には国際会計基準委員会(IASC)が設立され、IFRSの前身である国際会計基準(IAS)の策定を始めています。
背景には、資本市場の国際化に伴って、企業が他国の証券市場で上場することが一般化していったことがあります。上場には決算書の提出・公表が欠かせません。しかし国ごとに会計基準が異なると、企業の適正な価値評価や企業同士の業績の比較ができません。このため海外で上場した企業は自国の会計基準による決算書と上場先の国の会計基準による決算書をそれぞれ作成しなくてはならず大変な手間がかかっていました。
IASCは、このような状況を改善するために設立されました。ただIASは決して当初からスムーズに世界各国に浸透していったわけではありません。会計基準を統一しようとしても、国ごとに法律や商習慣に大きな違いがあったため、従来とは異なる会計基準を導入することで大きな摩擦が起きたからです。
2000年、証券監督者国際機構(IOSCO=世界各国・地域の証券監督当局や証券取引所などが構成する国際機関)がIASを承認したことにより、IASは再注目されます。
2001年にはIASCが国際会計基準審議会(IASB)に改組し、IASBが策定した基準が狭義でのIFRS(国際財務報告基準)に該当します。ただIASC時代に策定した国際会計基準IASはIFRSにも引き継がれており、現在はIASとIFRSの総称としてIFRSという名称が用いられています。
EUが2005年1月1日以降の事業年度からEU域内の上場企業に対して連結財務諸表をIFRSで作成することを義務づけたことから、IFRSは世界共通の会計基準として徐々に認識されるようになっていきます。2009年以降はIFRSを自国の会計基準として採用(アドプション)する国、そしてIFRSと自国の会計基準に共通性を持たせるためのコンバージェンスを進める国が増えてきています。
日本におけるIFRS対応の現状
独自のUS-GAAP(米国会計基準)があるアメリカでも、IFRSへの移行は徐々に進み始めました。これをみた日本も将来のアドプションを見据えて、現在多くの企業でコンバージェンスが進められています。
2009年には金融庁が「我が国における国際会計基準の取り扱いに関する意見書(中間報告)」を発表。2015年または2016年に日本企業に対するIFRSの強制適用の可能性を示唆しました。しかし2015年7月現在、IFRSの強制適用は予定されていません。またUS-GAAPは使用期限(2016年3月期まで)を撤廃し、引き続き使用可能としています。
今後日本の会計基準がいつの時点でIFRSのアドプションに踏み切るかは不透明ですが、強制適用が義務づけられた場合でも5~7年の準備期間が設けられる予定となっています。ただ自主的にIFRSを任意適用している上場企業はすでにあって、IFRSへの対応準備を水面下で進めている企業はさらに多いものと推測されます。日本取引所グループの発表によれば、平成27年6月現在のIFRS任意適用企業は61社となっており、さらに27社が任意適用予定となっています。
IFRSが今後企業と会計業務従事者に与える影響
IFRSは財務報告に関する原理・原則を明らかにし、その解釈や運用は企業の判断に任せるという「原則主義(プリンシプル・ベース)」に基づいています。日本会計基準のように具体的で細かな規定や数値基準を設ける「細則主義(ルール・ベース)」とは異なります。
また「包括利益」の概念の概念も従来の日本の会計基準にはないものでした(コンバージェンスにより2011年から日本会計基準にも導入)。このほか、原則主義によって企業の会計処理の裁量が大きくなるため「なぜこの状況でこの会計処理を採用したのか」を説明する「注記による情報開示量」が膨大になる傾向があります。
このように、IFRSは従来の日本会計基準と根底的な概念の違いが多くあります。経理・会計に従事する人はこうした考え方の違いを理解した上で業務にあたらなくてはなりません。このため、この分野の業務に従事する人は早かれ遅かれIFRSに対する本格的なキャッチアップを迫られることになるでしょう。
IFRSへの対応能力は転職市場においてどう評価されるか?
今後、グローバル企業をはじめ多くの上場企業ではIFRSへの対応、またはIFRSの導入を本格化することになると思われます。上場を目指すベンチャー企業などでもIFRSの体系的知識を持つ人や実務経験者を積極的に採用していくことになるでしょう。そうなれば上場企業や上場を目指す企業への転職でIFRSは大きな武器となるかもしれません。
IFRSの導入では外部の会計士事務所や監査法人、コンサルティングファームなどに委託する企業が増えると見込まれることから、こうした企業への転職でも今後はIFRSスキルが重視されるでしょう。
現在の勤務先がIFRSに対応していない場合、IFRSの実務経験を積むことは難しいことかもしれません。しかしこれからのキャリアマップを考えていく上で、例えばICAEWが実施しているIFRS検定を取得するなど、IFRSに関する体系的な知識を学んでIFRSの実務が経験できる会社へ転職し、資格と実務経験を武器にさらなるキャリアアップを狙うという中長期的な転職計画は有効かもしれません。
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監修:アンテロープキャリアコンサルティング この記事は、アンテロープキャリアコンサルティング株式会社が監修しています。 コンサル業界・金融業界への転職に役立つ情報を発信しています。 |
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