非公式のレファレンス

2016-09-01 執筆者:小倉 基弘

大手の外資系企業、金融機関、最近では日系企業についても、採用プロセスの後半(面接が終了して内定を出す直前)にレファレンスチェック(企業が採用しようとする応募者の以前の同僚や上司に対し、応募者の経歴・仕事ぶり・人柄を問い合わせること)を行うところが増えてきています。ただ、これはやや形骸化しています。何故なら応募者自身が回答者を2~3名程度選び、事前にその方々の了承を得た上で第3者(レファレンス専門業者、エージェント、採用予定企業)がヒアリングを行うため、回答する方々が応募者のネガティブ情報を流すとは思えないからです。私たちもこの形式的なレファレンスチェックの段階でNGになった事例は、ほとんどみていません。

しかし、世の中にはこの公式のレファレンスチェックではなく、非公式のレファレンスチェックが存在しているようです。

つまり友人ベース、知合いベースで応募者の情報(人柄、職務パフォーマンス)を聞いて、選考合否の判断材料にしてしまうのです。いま、AさんがX社にアプライしているとしましょう。X社の従業員もしくは採用業務に絡んでいる人の中で、Aさんの所属企業もしくは以前所属していた企業に友人、知人がいた場合、その人にAさんの素性を問い合わせることがあり得るのです。
「あいつは仕事はできるけど、一緒に働いている人たちに対する配慮が無いんだよ」
「仕事中ネットサーフィンばかりやってるよ」
「最初は真面目に見えるかもしれないけど、慣れてくると時間にルーズだし、挨拶もしないよ。あくびはするけど」
「通常業務は卒なくこなすけど、交渉が難航したり、トラブルまがいになってくると逃げる奴だよ」
そういったコメントだけで、それまで順調に進んでいた採用プロセスが一瞬でブレイクします。

この非公式のレファレンスはあくまでも友人同士の会話、知人同士の口コミ情報なので、現実問題として防ぎようがありません。人の口に戸は立てられぬ、ということです。また最近のEコマースの状況からもわかるように、人が一番信頼するのは友人、知人からの口コミ情報です。

私たちの行動は日々、周囲から細かく評価されています。小さな行為でも誰かが見ています。人の中で仕事をしていくのが人の宿命である以上、人間関係を常に円滑にしておく能力は重要であり、また日々、誠実に職務をこなす事は最終的には自分自身の身を守ることになるのです。
どうせ辞める会社だから、というような気持ちで仕事をしていればそれが周囲に伝わり、最終的にその人の評価を下げてしまいます。こういった些細にみえることが、キャリア形成上の大きな障害になってしまう可能性もあるということです。

もちろん、良い結果をもたらすこともあります。採用するかどうかの最終判断に迷っている時に、以下のような情報を得たらどうでしょう。
「自分が新しいプロジェクトをやるんだったら、彼/彼女とやりたいな」
「第一印象は地味だけど誠実で、成果が出るまで諦めずに取り組む人なんだ」
こういった情報が最終意思決定にプラスの効果を与えることは言うまでもありません。

日々の行動は必ず誰かが見ているのです。良いところも悪いところも。

代表取締役小倉 基弘 / Motohiro Ogura
【経歴】
上智大学法学部卒。日興證券(現SMBC日興証券)を経て90年、建築関連のビジネスを起業。約7年のベンチャー経営後、プロフェッショナルのキャリアデザインに関連するビジネス創造を目指して、人材エージェントにてコンサルタントを4年間経験。2002年、「野心と向上心を持ったプロフェッショナル」に対してチャレンジングな機会提供を行う目的でアンテロープキャリアコンサルティングを設立。同社は投資銀行、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、アセットマネジメント、不動産ファンド及びコンサルティングファームのフロント人材の長期的なキャリアデザインを支援している。07年アンテロープの共同創業者の増井慎二郎氏とオープンワーク(株)(旧(株)ヴォーカーズ)設立にも関わる。

【担当領域/実績】
専門は投資銀行、PE投資ファンド、投資先企業マネジメントポジション、不動産ファンド。